【雑記ノート】(おまけコーナーを作成中!)

2013年10月14日月曜日

詩集『発生と消失の間』






  リセット


こんなにも空が青いから

どんなに悪いことがあっても

僕の心はリセットされる

こんなにも空が青いから

どんなに忘れたくないことがあっても

僕の心はリセットされる

嫌なことも嬉しいことも

ぜんぶ青に染まる












蝋燭の火が消えるとき


蝋燭の火は

どうしてあんなに小さく燃えているのに

触れられないほどに熱いのだろう。

蝋燭の火は

どうしてあんなに熱く燃えているのに

消えるときは一瞬なのだろう。

永遠に燃え続けることができないと知っていた。

でも……。

消えた火の跡に手を当てて、

目をつぶる。

寝台に横たわるアナタ、

笑ったような。









  人形


考えがどこかに飛んでいく

僕の知らない誰かの中に

入っては出ていって

僕の知らない考えを含んで

またどこかに飛んでいく

そのあとを追いかけて追いかけて

考えることもできずに

ただ追いかけて追いかけて

気付いたときには

世の中という考えの上で

自分は呆然と立ち尽くす

人形になっていた









  レモン


レモンの汁を一滴垂らす。

それだけで、

変わらないことが変わるような。

そんなレモンの汁を、

私は今日も君に垂らす。

それは私のレモン。

君のじゃない。

君が私に垂らしたレモンの汁はもう枯れた。

いつまでも寝ている白い君に、

レモンの汁を一滴。

レモンの命。

それは長く続かない香り。









  絵のような雨


僕が濡れる代わりに服が濡れる。

服は僕の身代わりだから。

服が雨と同化してしまうと、

僕にも冷たい雨が降る。




それは火照る雨。熱い。それは握られない。

なぜだか急に不安になった。

雨はそこにあるのに。




手のひらに残っているのは、しずく。

それは少し前まで雨だったもの。

絵のような雨。









  私と太陽


坂と街を上り下りする私たちは、

なんだか似ている。

夏の暑い朝は

太陽のいない夜が寂しくて、

私は少しだけ時間を早めるけれど、

冬の寒い朝は

私のいない朝が寂しくて、

太陽は少しだけ時間が遅くなる。

私が太陽を呼び、

次に笑い、

元気になると、

太陽は私に驚き、

次に安堵し、

明るくなる。








  話をする


声を掛けても返事をしない夜に

私は笑い掛けて話をする。

どんなに月日が過ぎても

夜は私に話し掛けてはくれないけれど、

自分の足で歩いていくということを

覚えておいて欲しいから。

黙って夜は涙を優しく包む。

声を掛けても返事をしない彼に

私は笑い掛けて話をする。

彼も夜みたいだから。












  泳ぐ


言葉の海を泳ぐ

次の言葉を探して ひたすら泳ぐ

闇雲に それでいて目的を持って 確かに

くっきりと曖昧な言葉を追っていく

言葉の海に溺れないように

しっかりと泳いでいく

乱暴に足をばたつかせても

言葉を手で叩きつけても

あの言葉は出てこない

言葉の中に足を忍ばせ

言葉を静かに手で掬っていく

全身に言葉を感じながら

自分さえも 言葉になるような

言葉と一体になるような感覚で 泳ぐ








言の葉の海


狭い家屋からアナタは抜け出し、

静かな月夜の晩に身を投じて、

無数に広がる発想の海を桟橋から望むと、

惹かれるようにして満潮の水面に顔を映す。

青白く揺らめく自分の姿を眺め、

細い片手を差し出した。

掬い上げた水が少しずつ垂れる中、

ゆっくりと飲み干すと、

アナタの中に言葉が生まれた。













懸崖に立つ娘


逆巻く怒りに祈る影

揺らめく瑠璃のみなもに願いを込めた

喜び知らす命の朝日

照らすは光の炎

憂い知らす時の悲しみ

吹くは遺児の声

細い足の太い意志

懸崖に立つ震える心よ

流れるみなもと一つになれ

明日を望む瑠璃の瞳

願いを込めて

今日も瑠璃にみなもを染める










  永住地


吹きつける風に

生まれてくる産声が

二人を知る空の奏と共にやってくる

幾千の月に重なるように

流れる雲の姿となれ

まばたく命の か弱きボヘミアン

彼らはどこへ行くのか

やむことのない風に

またひとつの産声が

故郷を知る海の奏と共にやってくる

幾千の波に重なるように

羽ばたく鳥の姿となれ

きらめく花の 可憐なボヘミアン

かの永住地はここにあり




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